naebono Talk 「アート・アドバイザー 塩原将志に訊く!!アーティスト、ギャラリー、コレクターのリアルな場」第2回

(第1回はこちら)

第2回 画廊について、コレクターについて

 

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塩原:

次はですね、画廊(ギャラリー)。

ここはちょっと、、、、実は、、本当は厳しい(話し難い)ところで、、
画廊の方いらっしゃいますか?

山本:

(見渡して)いらっしゃいますね。

塩原:

先に僕のネタを明かしてしまうことになるので、、え~と、、、

ちょっと話しづらいところであるけど、、、、いいですか(笑)

まず、ギャラリーで何が大事かってもちろん、アーティストが一番大事なのです。

何を見るかって、作品の選び方、展示の仕方やプレゼンテーションとか、そういうのも全て含めてなんですけれど、

ギャラリーに作品や、アーティストを見極める目があるか!っていうのが最も大事なこと、それはもう当然ですね。

2番目が、「企画力」展示内容とスペース、要するに展示が美しいのは、
ファインアートってやっぱり目で見るものですから、大事ですよね。

大小ではなく、それに対してどれだけ考えられているか、
気遣いがあるかっていうことは、誰でも一目でわかります。

だから、いいかげんに展示しているギャラリーに行くと、すぐ出たくなっちゃうのです。
これでいいのか?! って思って。

皆さん、アーティストもそうなのですけど、作ることには一生懸命だけど、
作った作品や展示は最後に他人に見てもらわなきゃいけないのです。
そのときに手を抜いたらやっぱり終わり。
それが良いか悪いかは別として、
最後まで手を抜かずにきちっと自分の伝えたいことを見せられるように、
ギャラリーもアーティストもこだわっているかって、すごく気にかけています。

次に、「露出」ですね。

これはもう、ギャラリーは販売するところですから当然。

「露出」については、パブリックアートスペースへの影響力という形で、簡単に確認出来るのです。

例えば美術館に行ったときに、知っているアーティストが個展やグループ展に参加している。

その際に作品のキャプションや広告を見ると、
どこのギャラリーが協力しているのか? 作品を手配しているのか?
そのギャラリーがアーティストと近い関係にあるっていうことも、ある程度わかる。
ギャラリーが美術館にきちっとコミュニケーションしていたか?
っていうことがわかるのですね。

ですから、パブリックのスペースへの影響力について、
美術館でのグループ展、個展などでは、ギャラリーに「おたくから何点、何が出ているの?」と聞きますし、

これによってギャラリーがどれだけパブリックスペースと繋がりがあるか推測できます。

その繋がり(プロモーション)が、パブリックスペースに作品を販売する機会を増やすことにもなるのです。

国際アートフェアへの参加履歴っていうのもチェックします。

これは先ほど申し上げましたように、
アートフェアは、アーティストを世界に紹介し売り込む場所です。

そのギャラリーがどこのアートフェアに出ているか?誰を出したか?どう出したか?を確認します。

例えばご存知のようにバーゼルに出ているとか、フリーズに出ているとか、
FIACに出ているとかアーモリーに出ているとか。
「海外のアートフェアに出ました」って言われて、それが聞いたことのないような知らないアートフェアだと、
何のことですか?って話なのです。

アートフェアにもヒエラルキーがはっきりしていて、
どこに出ているかでギャラリーの力量や評価がある程度分かるのです。

今もうほとんどの影響力のあるアートフェアでは 事前にプログラムの審査があるのは当然で、

例えばフリーズ・マスターズなどは、展示が終わったギャラリーに対しても、
展示が悪い、これじゃあうちのフェアとしては見せられない、やり直して下さい。
って言うくらい、厳しいところになっています。

また、先ほども言いました美術館とか、プライベートコレクションへの販売実績、
CVの「パブリックコレクション」も、当然確認します。

例えば、日本人アーティストの場合、その作品がタグチ・アートコレクションに入っているとする。

すると海外で、コレクションを知る人は、
おっ、あのタグチ・アートコレクションに入っているこのアーティストは誰?作品はどこのギャラリーが売ってたんだ?
となりますね。

パブリックコレクションから、どこの画廊と繋がりがあるのかが逆に調査ができるのです。

それから資金面と取引の信頼性ですね。

これはすごく重要なところで、よくアーティストが作品が売れているのにお金を払ってもらえなかったりとか、

客がお金を払ったのに作品が届かなかったり、っていうこともあるかと思うのです。

もちろん商取引ですから、これはギャラリーの資金面と取引の信頼性というのは当たり前ですね。

企業として、商品を販売するのだから当然のことなんですけども、
逆にアート業界って商取引として甘いところがあって、
それではちょっと企業としては大きくなっていけない。

また、ギャラリーが信頼できると、お金を出すバックアッパー(支援者や投資家)が現れるのです。
コレクター達もそのギャラリーを応援しようと、ギャラリーの株を買うみたいな感覚で作品を買ったり、
活動にもお金を出してくれるようなこともあります。

急にギャラリーが大きくなったり、アーティスト増えたり、プログラムが変わったりというとき、

またその逆に倒産等もあるので、そのギャラリーに資金面で何が起きているのか注意してみています。

 

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いつも私はトークで皆さんにお話しすることがあります。

アートを好きで買ってるという方(コレクター)たち、好きで作っている方(アーティスト)たち、
いらっしゃると思います。

アートって最後は好き嫌いですね。 それはもちろん一番重要なことなのです。

でも例えば、釣りをやられているかたが、最初の釣りの道具を買って、
色々やって上手くなって知識も増えたら、
別のメーカーやスペックの道具も欲しくなってくる。

それって知識が増えたり、選択肢が増えてくると、好きなものって変わってくるということですね。
好きなもの、欲しいものっていうのは、移ろいゆくものなのです。

好みのタイプの人は変わらないかもしれないけど、、(笑)、そうじゃなくて、

それがなぜ好きか、どう好きかってことについて考えると

好き嫌いっていうのは、その時の美術経験、知識によって左右される。

私は日動画廊に入ったのに全く何も知りませんでした。

どうしたらいいのだろうか? って途方に暮れていたときに、

長谷川徳七社長に、とにかく美術館に行け!良いものをみておけば、悪いものがわかる。
悪いものだけを見ていても、良いものは見えないって言われました。

感性や判断力を高めるには、質の高いもの、良いものを沢山見ることが大切なのです。

それで海外出向した最初の3ヶ月くらいはヨーロッパやアメリカで、もうひたすら美術館を廻りました。

これは本当に良い教育を受けたなと思っております。

この時に、あっ!ここにある歴史の中に残るのは、どういう人達(アーティスト)で、作品なんだろう、
というふうに考えられるようになるのですね。

ですが、30年続けた今でもそこに残るものが何か?
まだハッキリ見出せずにおります。

まあ、良いものを見るといっても、良いもの悪いものって、皆さんそれぞれ標準は違うかもしれない。

しかし少なくとも、美術館のコレクションになっている作品は、
一度は誰か(キュレーター)に選ばれ、それを紹介しよう、後世に残そうと思った人がいるっていうことなのです。

ギャラリーも残そうと思っていますが、同時に商売ですから販売しようっていう両方があります。

でも美術館に収蔵されている作品は、純粋に残そうと思ったものなのですね。

なぜ美術館はその作品を選んだか?という視点で見ていると、すごく勉強になるのじゃないかな。

ということで、経験によって、好き嫌いというのもだんだんと変わってくる。
その質は高い方が好ましい。

スキーだって強い選手の滑りに接し、技術が向上すると、意識も取り組み方も変わってくる。
アートでもそういう感覚があると思います。

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どんな大コレクターでも、最後は好き嫌いで買っているんですね。

また、好き嫌いでスタートする人がほとんどです。

その後、ある程度作品が集まり、知識も増えてくると好き嫌いも少しずつ変わってくる。

そこで立ち止まらず向上心のある人は、次に良いコレクションを作りたい。となってくるのです。

そうするとまた、作品の選び方も少し変わってくるのですね。

そしてある段階を超えると、自分コレクションを通じて、
社会とコミュニケーションをしたい、みんなに見てもらいたい、となり、

自分が作品を持つことの責任とか、色んなことも含めて、
この楽しみを分かち合いたい、さらには社会に貢献したい。と、なっていくのです。

後で紹介しますが、コレクターの本っていうのが海外ではいっぱい出ています。

今説明したことは、それらの本の最初のほうに書いてあることなのです。

コレクションとは?良いコレクターになるためには?などが書かれています。

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これは最初にタグチ・アートコレクションに作品が120点くらい集まった時に作った、
最初のコレクション・カタログからの抜粋です。

カタログ作成時に、美術評論家の広本伸幸さんが(アドバイザーとして)いらっしゃって。

川村記念美術館の川村さんは1980年代初めはまだ、印象派や近代美術を買っていました。

広本さんはこの館のキュレーターとして、
当時マーク・ロスコ、バーネット・ニューマンやフランク・ステラなどを勧めて購入させました。

広本さんの存在がなければ、これらの現代美術の名品を今、日本で見ることは出来ません。

私もまた、メンターとして広本さんから、沢山の教えをいただきました。

彼の言葉、「同時代性のものっていうのはもちろんリスクがある。」

「そのリスクを、将来が不確かだとされる最新のコレクションを集めた人、リスクを背負った人が、
将来コレクターとして、コレクションとともに名前が歴史に残る。」

作品はもちろん残るのですけど、コレクターとして名前が残る。

例えばどうでしょう、ピカソの良い作品を持とうと思っても、今代表作ってもう買えないんですね。

市場に出回ることは滅多にはないし、出てきたらとんでもない金額になる。

ただ、同時代の作家というのは 今もこれからも代表作を買うチャンスがある。

とするならば、今、それを持つことが、将来評価につながる。

1900年代初めはピカソを購入した人(コレクター) や、ピカソを評価した人も、
人々は誰も気には留めていなかったと思うのです。

だけど、100年以上たった今では、みんながその人達は凄かった、先見の目があった!という話になっている。

それを今やるのが現代美術を買うことだと思っているのです。

今、私が扱っている作品がですね、、、 私には孫がいるのですけど、将来その孫達がこれらの作品を見たときに、

あの爺ぃ、、、じゃなくて(笑)、お爺様はあんな昔になんてカッコイイ作品を、このアーティストの代表作を扱ってたのだろう、って言われるようになりたいなあ、と思っています。

それが歴史に残ることといいますか、
次の世代の人たちにも受け入れられるものじゃなければ結局は残ったとはいえないですから。

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村上さんや奈良さんの活躍は、皆さんもご存知かと思います。

メジャーリーグでも、松井とか、、、(古いかな) イチロー と言ってももう辞めちゃいましたね。

日本人って、海外に渡った日本人にしか興味ないことが多いのですよ。

でも、当時ヤンキースには、ジータがいたり、アレックス・ロドリゲスとか、ランディー・ジョンソンなどの、

凄いプレイヤーがいたのに、メディアも含め日本人しかみていないのです。

勿論、日本から海を渡りメジャーの中のワン・オブ・ゼムに入ったことは凄いことです。

でも、海外からみたらワン・オブ・ゼムでしかないのに、
メディアはそこだけの情報しか報道しないから、それがメジャーリーグすべてみたいになっちゃっている。

彼らがどんなところで誰と戦っているのかってことを、知らない人が多い。

それを知らなければ、その場所では戦うことはできない。

その人だけ見るんじゃなくて、それと同じくらい、それ以上に活躍している、評価されている、
他の選手達たちアーティストにも、興味をもつこと。

困ったことは、海外の美術館やアートフェア、ビエンナーレとか行った時に、
多くの人は知っいてるアーティストやその作品しか見てないのです。

「あー、あったあった! これ知っているとか、これ見たことある!、、、。」で帰ってくる。

それだったら、海外に行かなくてもできることなのです。

行った時には知らないものにも興味を持たなきゃいけない。

宝探しのつもりで、知らないアーティストの作品も、
どういうものなのかっていうことを調べないと、、なかなか見つからない。

勿論、日本人の活躍は応援しますけれど、それだけじゃなく、
海外の同じくらいかまたはそれ以上に活躍しいてる人も、きちっと見る。

そうすると、なぜ日本人がそこで活躍できたのか、どう戦うべきか?
っていうのが逆に見えるようになります。

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このごろ、アート・アドバイザーっていう肩書きの方達がよく登場して色々話をしていますが、

実は、彼らの話すマーケットの話って、ここら辺の本でいくらでも書いてあって、
何々が幾らになって、値段が上がってる、下がってる、、、

なんていうのは、ここら(資料)を見ていれば、アナライズとか、そういう情報はいくらでも手に入ります。

だから、ここら(資料)を読んで、それ知らない人たちに話しているっていうのは、
タダの情報や数字でしかないんですね。

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先ほど申し上げたように、コレクターのための本っていうのは、もうこれだけ海外では出ているんです。

既にコレクターの多くが読んでるものです。残念ながら日本語になっていないだけで。

だから、なぜコレクションするのか、どういうコレクションがあるか?どうやってコレクションするのか?

良いコレクターはどういうことをやっているのか?どうやったら良い作品が集まるのか?

っていうのも、How to  だけじゃなく、ある程度はこういった本には書いてあります。

したがって、今日ここでは細かいことは話しません。

これらの本を取り寄せれば、ある程度はわかるかと思います。

まず、みなさんにこれらの本の存在を知っていただければと。

そして、実はここがスタートなんです。

誰でも手に入るものや情報は、既に手にした人にはスタートでしかないんですね。

ですから、この先のことは自分で出向いて、
今、後々にこの本に紹介されることやってる人たちと話して情報を仕入れる。

それが私が顧客からお金を頂ける情報だと思っています。

アドバイザーとしてお金がもらえる情報と、お金がもらえない情報があるならば、

これらの本で読める情報では、私はお金を頂けないと思っています。

(第3回に続く)

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