naebono Talk 「アート・アドバイザー 塩原将志に訊く!!アーティスト、ギャラリー、コレクターのリアルな場」第3回

(第2回はこちら)

第3回 ジェフ・クーンズを例に、オークションの話

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塩原:

このニュース、ご存知の方いらっしゃると思います。

ジェフ・クーンズの「ラビット」。実際にご覧になった方はいらっしゃいますか?

今年の5月19日のクリスティーズ・ニューヨークで、ジェフ・クーンズのウサギが約100億円で落札されました。

で、ハンマープライスが800万ドル、これ(約100億円)はオークション会社の買い手プレミア(手数料)入れての金額です。

存命するアーティストでは史上最高額です。

落札者はロバート・ムニューチンというギャラリー・オーナー、匿名の人物の代理人として落札しました。
要するに公表されない誰かの代理による落札です。

因みに、このムニューチンのご子息は今、米国の財務長官です。

ここでちょっと考えると、アメリカの財務長官のお父さんなら、
何十億使える人がお客さんにいるだろうなって容易に想像ができます。

ムニューチン・ギャラリーは、最高のセカンダリーギャラリーです。

(http://www.mnuchingallery.com)

そこには、もの凄い作品が展示されています。

今度もしNYに行ったら、重そうなドアの横のベルを押さないと入れませんが、
ベル押せば開けてくれるので、行ってみてください。

本当に一級品しか扱わない。と言っても過言ではないギャラリーなので、

ああこういうのを扱っているんだ、これが良いセカンダリーギャラリーなんだっていうのがわかると思います。

今、この情報が出なかったら、ムニューチンっていう人も、ムニューチンっていうギャラリーの存在も、

皆さんはご存じないまま、訪れることもないかもしれないですね。

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この件で、私は雑誌「美術の窓」にインタビューを受けたのです。

ここ(スライド資料)にちょっと書いてありますが、

「金額的にはびっくりするし僕が払えるお金ではない、だけど、よく考えてみるとそんなに驚く話ではない」と答えました。

そう言うと、スカした奴だと思われちゃうんですけど(笑)、

皆さんに、そう思われたくないので少し内容を話します。

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オークションのカタログってご覧になったことありますか?
「エスティメート」って意味はわかりますね、予想落札価格です。

ホックニーの「芸術家の肖像 – プールの2人」の話題についてはご存じの方いらっしゃいますでしょうか?

この作品が、クーンズのラビットの前年2018年に、90億くらいで売れてるのです。

このセールのオークションカタログには、
ホックニーのこの作品の予想落札価格がEstimate on Requestって書かれていました。

予想落札価格はお問い合わせ下さい。そしたら教えますよ。っていう意味です。

ただ、今回のラビットに関しては、Estimate on Requestではなく、5000万ドル~7000万ドル、
予想価格をオークション会社は事前に公示しているのです。

そうすると落札価格8000万ドルだったら、エスティメート上限の7000万ドルの約120パーセント弱、
要するに20パーセント弱予想額を上回っただけでしかないのです。

だから、いきなりこの金額を知った人には驚きですが、既に買う人たちにとっては、
事前にこの金額で何ヶ月も前に出ている情報なのです。

その金額の裏付けとして、2015年にクーンズの「バルーン・ドッグ」っていうのが、
オークションで約64億円で売れているのです。

この時、64億円で売れた「バルーン・ドッグ」よりなぜ「ラビット」が高いのか、
を調べればいいわけです。

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このラビットは、既に1990年の時点にMOMAで開催された「HIGH&LOW」っていう、

グラフィティとかデザイン、アートとは一体何だろう?

と問いかけた、ベルエポックな展覧会に出品されているのです。

(https://www.moma.org/calendar/exhibitions/1764)

つまり、この時すでにポップアートのリフレクションとして、
コンテンポラリーアートの重要な作品としてラビットが紹介されていたのです。

ってことは、85年に作られたこの作品は、90年には多くの人が目にして、
既視感のある有名な作品になっていたのですね。

それから考えると、もう40年近くずっと有名な作品で、
こんなに話題になってなかったのは美術館に収蔵されたり、個人所有の作品も販売の機会がなかった。

そして販売できる可能性があった最後のエディションが、今回出てきた。

この作品の重要性と希少性っていうのは、ある程度わかっていた。ってことです。

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じゃあムニューチンさんがどういう人なのか。

ギャラリーを開く前は、ウォール街の大物トレーダーで大コレクターです。

2004年に“ジェフ・クーンズのハイライト25年”として、バルーン・ドッグもラビットも、
すでに彼は自分のギャラリーで展示、販売しているんです。

この時は、数億円、数十億円? まだ数億円だったかもしれない、そのくらいの値段で売っていました。

このギャラリーが展覧会をやっていたのは、この時既にそれなりのお客さんを持っていた、ってこと。

この展覧会では、今の価格にするとざっと総額300から、400億円の作品が並んでいたわけです。

ムニューチンが落札と聞いて、彼なら当然それくらいの客がいるだろうなって、私は思ったので、
驚かなかった、ということです。

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これはちょっと自慢になっちゃうかもしれないのですが、、、

クーンズさんには 私、お会いしています。
これは彼が私にサインしてくれたヴェルサイユで展覧会やった時のカタログです。
そして表紙はラビットなのです。

そうすると、私はラビットをMOMAのHigh and Low 展にも出ているし、25年のハイライトでも出ていて、
ヴェルサイユを含めると3回見ていたことになります。

いずれの機会でも買えなかったけど。

その他の展覧会への出品回数を調べると、
どれだけこのラビットがアメリカ国内、国外で紹介されてきたか、
要するにものすごい履歴を持った作品ってことがわかります。

クーンズの作品の中でも、どれだけ大事な作品かはわかりますね。

だからあの金額になった。

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クーンズの作品はキッチュなイメージがあるのですけど、
実はシリアスなコレクターでもあるのです。

数年前、三菱一号館美術館のマネ展の時、この作品はクーンズのコレクションです。

彼はこの展覧会にマネの2作品を貸していました。

オープンで貸出し作品の所有者として来日した際に、これは僕のお客様なのですけど、
彼の作品の前で一緒に写真を撮りました。

この隣の画像はマーク・ストラウスさんと言って、

「アートコレクターズ」という雑誌に、私は寄稿しているのですけど、読んだことある方いらっしゃいますか?

(観客手をあげるのを見て)やった!! ご購読ありがとうございます。

私のコラムにマークさんを紹介しています。
彼は当然1985年にはクーンズに会っていて、このバスケットボールの作品を買って今も持っています。

「これ2万ドルくらいだった。それでも高いなあと思ったけれど。」

と彼は言っていました。

で、しかも彼はこの時、クーンズにお金を貸してたんですね。

彼は今ギャラリーも経営していていますが、誰もが認めるThe collectorです。

既に1985年には、クーンズのこの作品を買ってるんですね。今となっては10億円くらいだと思うんです。

やっぱり同時代に、出てきたての若いクーンズの作品を評価していたのです。

私も同世代のアーティストたちの作品に興味を持っていますが、それはマークさん達がやってきたことと同じなのです。

オークションでは、「時間を買う。」のです。

制作時にプライマリーから買えなかった人、その機会がなかった人が、

再販される時、再度マーケットに出てきた時に、作品に時間の経過によって付加された価値も買うことなのです。

最初に買えていれば、後で、オークションで買う必要はないのですよ。

あと、良いギャラリーっていうのは、売る人を選ぶんですね。

ギャラリーの一番大切な仕事は、売る人を選ぶことでもあるのです。

美術館とか、良いコレクターなど、アーティストのキャリアにとってどれだけこの買い手が有益か、
どれほどのコレクターなのかを調べて、選んで売る。

そういう人たちが持つから価値がさらに付加され、他の人たちがもっと欲しくなるっていうことです。

とすると、ギャラリーから大切な作品を一番最初にオファーされた人、
最初に購入した人についての買い手のヒエラルキー、優先順位があるということ。

この後にちょっとお話しします。

マークさんが 「ラビットは僕も手に入らなかった、やっぱりあれは欲しいよ、でも今の金額になったら買えないね。」

というくらいの作品だったってことです。
クーンズ本人のキャリアににとっても有益となる人の手に渡っていた。

だから値段が高くなったとも言えます。

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クーンズのラビット以前の最高落札額は、ホックニーの作品ですね。ホックニーはイギリス人です。

アメリカで開催されるオークションですから、
アメリカ アズ ナンバーワンの人達、アメリカ人は負けず嫌いだし、
イギリス人の作った最高落札記録を超す、

いつまでもマーケットトップの座に、イギリス人を座らせておくわけにはいかないぞ!

ってことになり余分に10億円くらい出てきたのかなって、私は思ってます。(笑)

それはもうアメリカ人ですから、しょうがないですよね。

(会場笑)

左の写真はデビッド・ホックニー「芸術家の肖像 – プールの2人」が落札された瞬間です。

手前に写っているのがラリー・ガゴシアンです。ラリーの頭。ガゴシアンギャラリーのオーナー。

で、この後ろに私がいて、ラリーさんはいつもこの辺り、ムニューチンさんはこっち側の席に座ります。

オークション会場に行って、誰が何を競ってるかっていうのを見ていると、
業者であればどんな商売しているのか?

各ギャラリーが自分の扱うアーティストの作品が出てきたら、それを買い戻しもしていて、
ギャラリーがどれだけアーティストの作品価格にコミットしてるか?
っていうのも見えます。

私はこの時もこの辺の席に座って、後ろからムニューチンさんがどんなものを買うか見てみました。

なぜ彼らのいつも同じと席が決まっているかというと、
いつもこの人たちはオークションで沢山売り買いしていて、
オークショニアも彼らのビット(入札)を見落としたくないのです。

必ず気にかけています。

1ミリオンダラー $1,1M $1,2M! いいですか?  いいですか?  (ハンマー)

1,2ミリオンダラーでこちらの方に落札

っていうふうになるんで(オークショニアの真似をしながら)  、

この人たちはいつも高額作品の取引をしているセカンダリーマーケットの王様達なのです。

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その場に行って見なければわからないことが沢山あります。実践ですね。

私が実際に出向いて経験を重ねていくこと、情報を集めることが、
お客様の利益になるのじゃないかと考えています。

情報を持つことによって、取引が有利になりますし、
そういうことをやっておかないと、足元を見られることもある。勉強しています。

オークションでは、同じアーティストでも、良い(競り上がる)作品と良くない(人気のない)作品があるのですね。

例えば、クーンズの場合も、チチョリーナといちゃいちゃしてる作品とラビットでは、何十億円の違いがある。

ということは、アーティストは株取引の銘柄とは同じではないのです。

アーティストっていうのは人であって、作品っていうのは一物一価の商品、

ひとつひとつの作品の価格が違う、ギャラリーではサイズで価格がつけられるけど、

セカンダリーではその作品の価値、出来不出来、作品の状態、来歴、などで変わってきます。

それがセカンダリーマーケット醍醐味でもあります。

同じシリーズや時期でも、作品の出来は同じではない。
人気のある作品、多くの人に支持される作品と、そうじゃない作品、、、、、

アーティストの方はみんないいと思って出すけど、後々明確にそれぞれの作品に価格差が出ちゃうものなのです。
それが良い悪いということではなく。

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本当に良い作品っていうのは、常に売り手市場なんです。

私みたいな(アート・アドバイザー、コンサルタントを専業とする)人は、日本ではあまりいないかもしれないけど、

海外にいったら腐るほどいるのです、私くらいの情報をもっている人はゴロゴロと。

だから、良い作品にはみんな鼻を効かせて寄っていくのです。

ギャラリーもそういったお客さんを多く相手にしていて、私が買いたいって言った時に、

「じゃああなたを何番目のリストに入れました」って言われる時は多々ある。

これはいいんじゃないかって情報を集めていくと、もうそこにはみんな集まっている。

そこには買える順番があって、やはりまず最初に美術館、ヒエラルキーがある。

金があればいつでも買えるものじゃなくて、奪い合いに行くような感じなのですね。

マスターピースっていうのは、必ず売り手市場、入手が困難です。
買手には優先順位があるということ。

アーティストとギャラリーにとって優先順位はまず美術館。

で、コレクターの中でもその優先順位がはっきりしていて、コレクションの内容は勿論ですが、

スペースを持って公開している人、それから、コレクションが美術館などのパブリックスペースで公開されているか、
そこで決まります。

一番の美術館は、作品をきちっと公開出来る場所ですね。
で2番はコレクターでもスペースがあり公開している人たち、
3番はどこかの美術館でコレクション展をやっているコレクター、

でまあ4番目に、私たちみたいに良いコレクターが顧客にあるアート・アドバイザーや同業者、
そしてムニューチンのような太い、ディープポケットなお客さんを持っているディーラーなど。

5番目の同業者にはしっかりとお客様(コレクター)と繋がり(信頼関係)があるということを大前提として、
順番が回ってくる。

で、6番目にアートファンド。アートファンドは買って利を儲けるだけで、なんでもいいわけですから一番最後です。

何千億、何百億もの資金を持って来れば話は別ですけど。
良い作品を売るのに、一番順位が低いのはこのアートファンド。

アーティストを銘柄、作品は株、どの作品も額面が同じとしか見られない輩に作品を渡してもすぐ売り飛ばされて、
彼らを儲けさせるだけです。

またコレクターやアドバイザーの振りをした「フリッパー」はタチが悪い。
間違えて「フリッパー」に作品を渡せば、その作品はすぐに転売され、どこかに流されてしまう。

私の仕事は、このヒエラルキーの中で顧客や自分自身の優先順位を上げ、
そして欲しい作品を入手できる確率を上げて行く、、、、。

買う側の交渉力、買い手としての力もつけていかなければなりません。

そのためのアドバイス。 また作戦も顧客(コレクター)と一緒に立てるようにしております。

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美術館で開催される展覧会や、国際アートイベントなどのアカデミックな価値付けをする場所と、
アートフェアは別と考えています。

アートフェアっていうのは、コマーシャルな場所だから買う人のためのものなのです。

みんなのためのものじゃないんです。

要は商売ですから、買う人のために情報を提供する。
買っていなければ、買う人だと思われなければ ”おいしい情報” は出てきません。

買い手としてのヒエラルキーが高くないと、”おいしい情報” は滅多に出てこないので、
そのためにいろいろな努力をします。

今までにこのようなのカタログ(タグチ・アートコレクション)を作ったりとか、
こうして美術館で展覧会もやっていますよ。 とアピールし、

向こう(売り手)も、ああ、そういうことをやっている人たち(コレクター)なのだから安心して、
「こんな話があります。」「この作品をお出ししましょう。」っていうふうに順番が変わってきます。

ここが「The collector」と「collector」の違いですね。

「Collector」っていうのは自分の好き嫌いで、自分のために買っているという人で、

「The collector」っていうのは最後に社会に還元までする人、それをみんなの共有財産として扱える人です。
コレクターと呼ばれるかたは沢山いらっしゃいますが、
ザ・コレクターと呼ばれる人は自身の努力とみんなの協力でつくられるものです。

さきほど、主にプライマーマーケットでは買う順番、優先順位があると話しましたが、
逆にオークションは公平な場所であるとも言えます。

それは、誰でも、どんな人でもお金一銭でも多く出せば買える。シンプルなルールだからです。

プライマーリーマーケットで欲しい作品が手に入れられずに、

どうしてもそれが欲しい作品だったとしたら競り合って一番高いお金を出して買うことになる。

その時(オークションで)どうしても 欲しい人たちが競り合えば、値段は上がっていくのですね。

そこで、ギャラリーは、欲しい人達をいっぱい作っておくことも仕事なのです。

先ほど影響力って言いましたけど、

ギャラリーの影響力は、欲しい人たちをどれだけ作れるかっていうことでもあります。

そこで買い手として優先順位を上げたければ、情報の源泉に近づきたければ、
源泉近くはきびしい世界と言えます。

そこではそのギャラリーへのロイヤリティは大切だからです。

買えなくても、買わなくても、「来ました」。
そして「今回もまた来ました」とギャラリーやフェア会場のブースに顔を出しています。

そして、「どんな作品あるの?」「今回は売れてしまっているけど、今他にどんな作品情報がある?」
などなど、犬のように聞きまわる。

ギャラリーから、「こんなのがあるよ。」「次にあそこでやる展覧会にこのアーティスト参加するよ。」とか、

「そしてこの作品出るよ。」「どこどこでこのアーティストがプロジェクトするよ。」と教えてもらう。

そしてそこに出向き実際に見て、その中で興味ある作品が展示されていたら、
「興味がある。」「これ売ってくれるかな?」って連絡する。

「まあその時になったらお話をします。」 って、”おいしい話”を取り付ける訳です。

こうしていつも顔を出していないと、情報っていうのは途切れてしまう。

インターネットで大々的出回る情報やニュースは、先ほども言いましたが事後の事、起こる前のことっていうのは、

その前に動いている人たちがいる場所に行って、話を聞かなければ情報は取れない。

冷や水浴びることも沢山あります。 冷や水じゃなくて熱湯浴びせられることもあるのです。

欲しい作品のためなら、それでもめげないことが大切です。

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貨幣っていうのは、様々なモノやコトに対して交換価値があるんですね。

要するにお金を持っていけば、いろんなものに換えてもらえる。

土地や株なども、勿論美術品にも交換価値があります。

その美術品に交換価値がなければ、何にも換えることはできない。資産としてダメですよね。

交換価値って何か?   例えば僕のもっている作品を山本さんにあげるから、山本さんの作品ちょうだい、
これも美術品どうしの交換価値です。

他人が自分の持つ何かを差し出してでも、欲しいと思われることが作品の交換価値になる。

早い話、作品がお金にも換えられる。ってことで、

作品には、そう思わせる「何か」がなければいけないのです。

それがあれば人は買いますよね。

作品の取り扱いギャラリーも、そういった交換価値としての評価、判断のひとつの要素です。

やっぱり作品はそういう(信用できる、期待出来る)ギャラリーから買いたい、と思うのは自然なことだと思います。

で、美術品の「販売価格に信用性があるか?  」はギャラリーの責任で、

「作品に交換価値があるか?」っていうのは、
最初に言った7人のプレイヤーがみんなで支えあって出来ているのですね。

コレクターだけじゃないし、アーティストだけじゃないし、キュレーターだけじゃないし、

美術館、ギャラリーだけじゃない。
バラバラじゃなくてみんなが支えあっているから信用(交換価値)ができるのです。

アートフェアや国際アートイベントで、ディナーとかいろいろ呼ばれるのですが、

そこには美術館のキュレーターも、コレクターも、評論家も、アーティストいれば、
中には金融関係の人とか、いろんな人が来ています。

そういうひとたちと情報を共有しながら、交換価値っていうものはみんなで作っていくもの、
ひとりで作れるものじゃない。

それはレオ・キャステリが私に言っていたこと、
価値は人とのネットワークの中でできていくものだということです。

(資料を見ながら) 残りここらへんは、、、写真に撮って読んでおいてください(笑)

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で、さっきのアートフェア。

今すごく多いんですね。 雨後の竹の子のように出来て回りきれないほど多いのです。

だけど、もう既にアートフェアは淘汰される時代になってきています。

アートフェアの良い悪いもハッキリしてきて、
私も最初の頃は頑張って出来るかぎり全部回ろうとしていたのですが、この頃は行くところはある程度決めています。

知り合いのアドバイザーもコレクターも全部は周りきれていないと思います。
大小合わせると一年に300以上あるわけですから。

実は自動車業界では、既にモーターショーに出ない大手自動車メーカーもあるのです。

モーターショーで見せて販売する、ということがオールドスタイルのビジネスになってきちゃってる。

例えばギャラリーがアートバーゼルに出店するには、一回1000~2000万円っていうお金がかかるんですね。

このあいだもロンドンに行った時にロンドンとベルリンのギャラリーに聞かれたのは、
来年3月のバーゼル香港に出店するか迷ってる、

作品を送って、人を送って、ブース代払って、2000万のお金が簡単に飛ぶ、今の香港の状況をどう思うか?
お前は香港に行くか? でした。

そうすると、ギャラリーによっては年間フェアの経費が億単位かかるところもある。

その上、ギャラリー自体も運営していかなければならない。

これだけ各アートフェア間の競争が激しくなってきて、顧客も訪れるフェアを選抜している。

更にアートフェアへの出展料が高くなってきている訳ですから、
アート業界も自動車業界と同じようにことになってくる。と思っています。

アートフェアって、大きくてもこれくらいの(トーク会場を指しながら)ブースなんですね。

そこにギャラリーの取り扱いアーティストの作品を全部並べることはできない。
個展するにも充分なスペースではない。実は単なる、ショーケースでしかないのです。

ですから、ギャラリーに行って、展覧会や個展を見ること。これがすごく重要です。

アートフェアだけ行ってアート見てきたよって言うんだったら、それはよござんした。って話で。

アーティストにとってギャラリーっていうのはホーム、
一緒にやっていくところだって先ほども申し上げました。

アーティストは所属するギャラリーのスペースを知っているんですね。
展示に際して壁の長さも、天井の高さも、照明も、発色も知っている。

一緒にやるギャラリーを持つってことは、ホームゲームをやるってことなのです。

勿論観客、サポーターも知っています。

いつもやっている、知っているスペースなら、
次の展覧会の日程が決まったら、その前からでもそのためのプラン、

どういう展示をしようか、照明がこうだし、こういう見せ方をしたらいいって、
自分の頭のなかにあるものをすべてそこに打ち込むことができる。

アウェイゲーム、全然知らないところでの展示や、
フェアでの小さな仮設壁立てたスペースだったらそこまでできないんですよ。

だとすれば、ホームゲームも見てあげないと。

フェアのブースだけでは判断できない場合は、割り切って買わずに、
ギャラリーでの展覧会を見てから決める。

フェアでパッと見て良さそうだなと思ったら、そこのギャラリーでの個展に行って決める。

初めて訪れるギャラリーなら、その時どんなスペースか、どんな出版物を出しているか、
先ほどお話ししたチェック項目を見る。

知らなかったアーティスト作品を購入するのに、そのような作業もしています。

じゃあ私の話はここまでなんですけど、

ここの段階で一回質問を聞いておきましょうか。はい、どうぞ。

質問者:

アートフェアが飽和状態になっているというお話で。

世界中のギャラリーがそれに疲れている状態だと思うんですけども、

次なるシステムとしてこういうものが現れるだろうとか、そういう見立てというものはありますか?

塩原:

ひとつはロンドンの画廊がアメリカの画廊とやったのは、画廊のスペースを取り替えるってことをやりました。

質問者:

ああ、CONDOですか。

(http://www.condocomplex.org)

塩原:

はい、CONDOがそうですね。

それから、アートフェアに行った時に、NYだったらギャラリーでディナーをやるんです。

アートフェアは人が集まるけれども、その時勝負しているのが自分のギャラリースペースっていうのは多いですね。

結局は他の団体を作ったり、CONDOのような動きもありますけど、

それよりももっと手っ取り早いのは、自分のギャラリーにお客さんを呼んでくるってこと。

その街までわざわざ人が来いてるわけだから、自分のギャラリーにまで人を呼び込むこと、

ゆっくり見せるってことはもう、各ギャラリーがやり始めています。

質問者:

それを聞くと日本でそれをやるというのが、結構難しいように思えるんですが、

日本のギャラリストが日本のギャラリーで機会を得るには、今後どういうふうにしていけばよいと思いますか。

例えばCONDOだと場所の入れ替えとか、そもそもあるコミュニティの中に入らなければいけないのと、

海外のギャラリーが日本と入れ替えとかあまりメリットがないんじゃないかなと思ったり。

塩原:

はい、それはないと思いますね。

質問者:

アートフェアも日本は海外に比べてあまり活気がないと思うので、

それに乗じて日本のギャラリーが海外のお客さんにその時にみてもらうといった機会があんまり無いと思うんですけど、

島国ってのもあるのかなと思うんですけど。

ここにいるのは日本のアーティストだと思うんですけど、

自分で日本のギャラリーと協力して、海外のマーケットに行くためには、

今後ギャラリーやアーティストはどういったプランで活動の幅を国際的に拡げていけばいいと思いますか?

塩原:

アートって、先ほども申し上げたように、システムで動いているだけじゃなくて、人で動いているんですよ。

あなたは何人の海外のキュレーターの、あなたの好きなアーティストの本を書いた人の、ライターの、名前を知っていますか?

質問者:

あまりわからないですね、、、

塩原:

その人たちが、展覧会をやっているんですよね。その人たちとのアクセスを取るしかないです。

それはシステムじゃなくて、個別でいけるところなんだもん。

自分がやりたいところ、例えば会社に就職するのに、その会社の社長の名前知らないで就職試験受ける人、いないじゃないですか。

だとすれば、どんな人たちが展覧会やってるんだ、とまず考えていいんじゃないかと思います。

その方たちともし何かの機会が会った時に、話す機会ができますよね。

まず人を知らなきゃいけないですよね、先ほど言った7人のプレイヤーの誰か、その人はどこに所属していて、何をやっているのか。

その方たちと会った時には、最低でもそこから話がスタートできますよね。

その方たちと会わなきゃ、システムを作っても交換にはならない。

中には、おもしろいからちょっと一緒にやってみようか、っていう人が出てくるかもしれないんですよ。

だから、人と会わなきゃダメです。自分たちだけでやっててもダメで、やっぱり出て行って人に会わなければ。

僕が「最後に言おうと思っていたのは、アートって人が作って人が動かす。」なのです。

人と会わなきゃダメです。まずは個人的にやってみればいい。

仰るようなシステムを作るのには、今の日本はかなりディスアドバンテージが多いかもしれない。

だとするならば、まず最初に展覧会のキュレーターはだれでどんなことを書いてるのか、この人はどんなことに興味があるんだろうか、

例えば、ジェンダーについてやってた展覧会であれば、自分がジェンダーについてこういうことをやってます、と彼らにプレゼンすれば、

彼にはジェンダーっていうことが希求テーマだから耳は傾ける。 まずはそういうところから。

ギャラリーに対しても一緒ですね。自分に合う展覧会をやっている人がいたらそこにカタログを送るとか、手紙を書くとか、キュレーターが来た時に会いに行くとか、

オープニングに行って挨拶だけでもして、「あの時挨拶しました。今度ギャラリーにも行きます。」って言って自分で出向いて会う。

日本の場合はシステムを作れば人が来るんじゃなくて、個別のところからやっていかないと、個で動くしかないかな、と思っています。

質問者:

ありがとうございます。

(第4回に続く)

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