naebono Talk 01 – 進藤冬華「アメリカ滞在報告 & 札幌で制作活動を続けること」-第1回[トークの趣旨と、滞在の概要]


進藤冬華
「アメリカ滞在報告 & 札幌で制作活動を続けること」

聞き手:山本雄基

2018年1月7日

この対談は、2018年1月7日にnaebonoにて行ったトークイベント『進藤冬華「アメリカ滞在報告&札幌で制作活動を続けること」』の内容を元に、ウェブ用に新たに加筆・修正を加えたバージョンです。
全5回に分けて掲載します。

北海道開拓顧問であったケプロンの調査をすることで見えてきた、歴史的背景。またニューヨークでの生活で感じた、美術の大きな文脈が作られる場のリアリティ。北海道をテーマに札幌ベースで制作を続けてきた進藤さんにとって、それらに対する違和感が明確になったことは大きな体験でした。加えて国内においても、教科書的に受容してきた日本史と、北海道史のあいだで自身の立ち位置が揺れる感覚は、帰国後もずっと気になっていたとのこと。そこから考える札幌で制作する態度、権威的な力に対するオルタナティブな方法としての美術とは。
たくさんのトピックは、ここで美術に関わる我々にとっても共感できたり差異を考えることができるような、興味深い内容になりました。


第1回[トークの趣旨と、滞在の概要]

山本:
本日はお集まりいただきありがとうございます。
今日は、2017年6月から半年間ニューヨークに滞在していた、ここ「naebono」の入居者の進藤冬華さんが、帰国してまた札幌をベースに活動されるということで、その報告会と、実際に体験からどんなことを今現在思っているかというのを語っていただこうという趣旨になっております。
じゃあ、まず進藤さんの自己紹介を簡単にお願いします。

進藤:
みなさん今日はお集りいただき、どうもありがとうございます、進藤冬華です。
私はアーティストなんですけど、北海道の歴史や文化に関する作品を今まで多く作っています。
博物館の収蔵品とか、そういうものを参考に作品を作ったりしてきていて、メディアとしては、色々ですが縫い物をしたりとか、写真を使った作品を作っています。
進藤冬華ウェブサイト

山本:
では僕も自己紹介を。今回進行のご指名を受けた山本雄基と申します。
同じくnaebonoの入居者で、普段は画家をやっております。
丸をたくさん描いていて、透明層でその丸を包む みたいな抽象画を描いています。
僕も2012年に1年間ドイツに滞在して帰ってきたのち、札幌をベースに活動しているということで共通性があるんじゃないかな、ということで作家同士の感性で、なにか聞けたらいいなと思っています。
山本雄基ウェブサイト

進藤:
このレジュメに沿って話していきます。
まず、なんでトークをするかという話なんですけど。
今回のニューヨーク滞在はACCのフェローシップのプログラムで行くことができました。
ACCは、ビジュアル、パフォーミング・アーツの分野で、アメリカとアジア、そしてアジア諸国間での国際文化交流を支援するアメリカの非営利財団で、美術や音楽、ダンスなんかに関わる人たちに長期間のフェローシップと短期間の渡航グラントなどを提供したりしています。

こういう機会をいただけたことを私だけの経験にしないで、札幌や今までお世話になっている人たちと共有する事で、誰かの刺激になったり役立てられたらいいなと思って、公のトークをやりたいと思いました。
基本的に私自身、これまで本当に多くの人に支えられてアーティスト活動をしてきているので、恩返しがしたいという気持ちがあります。
次、アメリカで何をしたか…いいの? どんどん次に行って?

山本:どんどん行ってください、まずは。

進藤:
はい。ここ何年か北海道の開拓に興味があり、それに関連するリサーチをしにいきました。
ホーレス・ケプロンという、北海道開拓使が明治初期に開拓のアドバイザーを招いていて、その人について調べることが一つの目標でした。
ケプロンは日本に来る前はアメリカ政府の農務長官だった人です。
日本では色々な事をしましたが、一つは西洋型の野菜や大規模農業の紹介をしたっていうのがあります。

その関連で、例えば調査で行った場所としては、John Deere(ジョン・ディア)っていう会社に行きました。
この会社は、農業、造園、工事関連の機械や車両を作っている会社です。
そこで農業機械がどういうふうに発展したかを見学したり。

あと、ケプロンは、メリーランド州のローレルという街を設立した一人なんですよね。その街を訪れたり。
ローレルで綿工場(コットン・ミル)を操業していて、工場があったために、街ができたんです。
この建物は工場の労働者の住居だった建物ですが、現在も人が住んでて、他の棟は郷土資料館になっていました。
工場があった場所は今はプールになっているんですけど。
こういった所を訪れて、旅という経験をとおして自分の中に落とし込んで行く事も、調査のなかのひとつです。

John Deere(ジョン・ディア)
メリーランド州のローレルにある綿工場(コットン・ミル)の労働者の住居
工場があった場所は今はプールになっている
その他に、ニューヨークではISCP(International Studio & Curatorial Program)のレジデンスのプログラムに3ヶ月間入っていて、これはスタジオの風景です。
オープンスタジオで、スタジオを開放する日。これは過去の作品です(写真見せる)。
あと今回のケプロンの調査を基に、ドローイングのような感じで切り絵つくったので、そういうのを、オープンスタジオで見せたりとか。これは制作途中の様子です(写真見せる)。

山本:
ちょっと簡単な質問をいいですか?
その工場に行けたりとか、その街に取材できたりというのは、誰かに聞いたりしたのか、自分で調べてオファーしたのか。どういうきっかけで?

進藤:
自分で調べて行ったんですけど、パブリックにオープンになっているところまでしかきませんでした。
さっきの、農業機械の写真も、会社のショールームって感じで。
街そのものが会社に連動した歴史を持っていて、博物館もあるし、工場もあるし、ショールームもあるし、みたいな感じだった。

ISCPのスタジオの風景

山本:
じゃあそこに行けば、歴史とか、ケプロンの個人のこともある程度わかる?

進藤:
例えばJohn Deereについては、ケプロンはのここの農業機具を北海道に導入していて、それがきっかけで興味を持ったので、直接ではないけど、彼が生きた時代の農業のこととか様子がわかります。ケプロンが生きた時代に設立したこの会社が今も続いていて、こんなに大きいとは思わなかったのですごく驚きました。
他にケプロンに直接関わることは、本や論文、博物館のカタログなどを見ました。図書館とか博物館の資料を取り寄せてみる方が多かった。
あと、別の調査で専門の方にインタビューが必要なときはACCのスタッフに協力してもらって、博物館の学芸員の方を紹介してもらったりもしましたよ。

山本:
わかりました。あと、スタジオだったISCPは、どういうふうに決まったんですか?

進藤:
それは、ACCから提案していただいて決めました。
私自身、ニューヨークのレジデンス事情がわからなかったので、提案してもらえて良かった。

山本:
自分の他にどんなアーティストがどれくらいいたとか、中の状況はどんな感じでしたか?

進藤:
スタジオ自体は35部屋かな。インターナショナルプログラムだから、色々な国の人がいて、という感じだった。
ISCPが企画して、ギャラリーツアーに行ったり、キュレーターのスタジオビジット、オープンスタジオがあったりと様々なオプションがありました。
多分日本だとちょっと違うのかもしれないのが、ここは行く人がお金を払う、という仕組みだから、ほとんどの人が何処かから助成を受けて来ている。
すごく高いから、自費で行くのはなかなか大変かもしれません。

山本:
入居しているのは、基本的に現代美術のアーティストですか?

進藤:
いや、キュレーター、画家、彫刻家、写真、フィルムメーカーなど色々で、現代美術だけではなかった。

山本:
わかりました。もうちょっと今のところで全体の生活に関して。
6ヶ月の間、リサーチと、ニューヨークでのレジデンス生活って、どういうサイクルだったんですか?

進藤:
ベースがニューヨークで、6ヶ月通して展覧会やイベントにはたくさん見ました。
そして旅行やリサーチで外に出ることが何回かありました。
前半3ヶ月間は、ケプロンの調査で読んだ事ない本とか文章を調べて読むっていう作業があった。それは時間がかかった。あとはニューヨーク内で見れる都市農業の現場を見に行ったり、ネイティブ・アメリカンのお祭りに行ったり。
後半の3ヶ月は、ISCPのレジデンスがあったから、ほぼ毎日スタジオでした。アーティストのためのマネージメント講座を受けたりもしました。

山本:
行動範囲としては、東海岸沿いが多かったんですか?

進藤:
ほとんど東海岸です。少し離れたシカゴにも行きましたが、それは調査のためにイリノイ州にいったなかで立ち寄っただけで、それ以外はフィラデルフィア、バルチモア、遠くてもワシントンに行くぐらいでした。

山本:
わかりました。これでざっくりと半年の流れは追えたかと思います。

進藤:
じゃあ、ここからが本題。
何話していいかわからなくなりそう、どうしようかこれ(笑)。

山本:
今日は、その時のトピックを元にしましょう。話題を整理するために進藤さんがまとめたキーワードがいくつかあるので、それに沿ってひとつずつ、話を進めていこうかと思います。


>>第2回[「私が見た美術」及び「美術史」について]に続く

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